鉄則日誌

漫画、映画、本などについて語っていきます。

Kindle Unlimitedで毎日一冊ずつ読む②

 

Kindle Unlimitedは予告なく終了する作品も多いので、あくまで執筆現在Kindle Unlimitedに入っている作品ということであるので、注意して欲しい。

 

『とある新人漫画家に、本当に起こったコワイ話』

佐倉色

 

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 主人公は作者自身でいわゆるエッセイ漫画である。

 

 某大手出版会社(作中では名前が伏せ字無しに何度も出てくる)に対するある意味告訴状のような内容で、

 ・1600枚以上の色紙を報酬ゼロ(しかもカラーで描くように頼まれていた)で描かされる。

 ・打ち合わせの約束をすっぽかされる。

 などなど無責任な行動の多い編集者とのやりとりが事細かに描かれている。

 

 編集者とのやり取りで作者自身の精神が壊れていく様を見るのは辛いものがあった。

 

 長文で描かれる作者の魂の叫びは、心に染みた。

 

 エッセイ漫画というと、昔は子育てもの(『ママはぽよぽよザウルスがお好き』、『うちの三姉妹』他)などのほほんとした日常を描いたものが多かったが、昨今は幅を広げていきこういった作者の悲痛な叫びを描く人間の負の部分を扱うものが多くなってきた。(『ど根性ガエルの娘』、『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』など)

 昔で例えると山田花子が実体験を基にした漫画で描いていたものに近いと言える。

 

 話を戻そう。編集者のやり取り以外で印象に残ったシーンは、Twitterやブログなどで作者と読者の距離が近くなったが故の苦悩だった。

 作者はブログやTwitterで今回の編集者とのやり取りや自身の心情を綴るのだが、読者の意見は様々で、作者を心配して擁護する人もいたが、悪く言う人も中にはいた。

 作者はそれで読者の目が気になり始めナーバスになり、ブログの記事が勝手に某まとめサイトに歪曲した内容で引用され使われた時、消したらどう言われるのだろうかと思い悩み、消すか消さないか少し迷ってしまっていた。

 このシーンは現代ならではの悩みを描いたもので、読者と作者の距離が近い故に苦悩することもあるのか、と感じた。

 

 以上のようにこの作品は負の描写が多いものである。昨日レビューした『全員くたばれ大学生』は主人公の叫びを笑うことができたが、今作品は一切笑えない。フィクションではなく本当の叫び声だからだろう。

 

 出版業界の裏側を知りたい方には是非オススメの一作だ。